千葉家庭裁判所一宮支部 平成3年(家)31号 審判 1991年7月31日
申立人 土井尚
相手方 土井みよ 外4名
主文
1 相手方土井勝の寄与分を金1000万円と定める。
2 被相続人亡土井喜一の遺産を次のとおり分割する。
(1)ア 別紙遺産目録(編略)記載の各物件中、No.1の土地、No.2の土地、No.4の土地及びNo.14の各土地(各計7筆)は、いずれも申立人が単独取得する。
イ 同No.18の土地及びNo.28の土地(合計2筆)は、いずれも相手方土井孝が単独取得する。
ウ 同No.7の土地、No.11の各土地、No.12の土地、No.13の土地及びNo.20の土地(合計6筆)は、いずれも相手方白山トヨが単独取得する。
エ 同No.8の各土地、No.10の土地及びNo.21の土地(合計4筆)は、いずれも相手方山本良子が単独取得する。
オ 別紙遺産目録記載の各物件中、上記アないしエに掲載した以外の各土地及び建物は、いずれも相手方土井勝が単独取得する。
(2)ア 申立人は、相手方土井孝に対し金6448円、同白山トヨに対し金14万2589円及び同山本良子に対し金8万9789円を、
イ 相手方土井勝は、同土井孝に対し金6008円、同白山トヨに対し金13万2867円及び同山本良子に対し金8万3667円を
それぞれ本件審判確定後直ちに支払え。
3 手続費用中鑑定費用金90万円は、相手方土井勝において金54万円、申立人、相手方土井孝、同白山トヨ及び同山本良子において各金9万円あてのそれぞれ負担とする。
理由
当裁判所は、本件審理の結果に基づき、以下のとおり認定判断する(なお、相手方土井みよ(以下「相手方みよ」という)は、当裁判所からの審問のための呼出しに出頭して来なかったが、同相手方の意向は、当庁家庭裁判所調査官○○○○により調査ずみであり、また、本件の法律関係をこれ以上不安定な状態のままにしておくのは相当でないと考えるので、同相手方に対する審問をしないまま判断をするのもやむを得ないと解するものである。)。
1 相続人、相続分及び相続分の譲渡
被相続人土井喜一(明治42年8月5日生)(以下「被相続人」という)は、昭和63年1月2日死亡し、同人につき同日相続が開始した。そして、その相続人は、妻である相手方みよ(明治42年8月29日生)、長男である同土井勝(昭和7年2月15日生)、二男である申立人(同9年1月16日生)、三男である相手方土井孝(同10年11月30日生)、長女である同白山トヨ(同14年3月30日生)及び二女である同山本良子(同15年12月20日生)の6名であり(以下相手方らについては「相手方勝」の如く示す)(なお、四男土井卓(同12年9月1日生)は、同54年10月14日死亡しており、同人には相続人はいない。)、各自の法定相続分は、相手方みよが10分の5、その余の相手方ら及び申立人が各10分の1である(民法887条1項、890条、900条1号・4号)。
ところで、相手方みよは、昭和63年4月25日付同相手方外3名の連名による上申書及び○○調査官に対する陳述(○○調査官作成の調査報告書)中において、同相手方の相続分を相手方勝に譲渡する旨の意向を示しているところ、これは、相手方みよにおいて、土井家の家業である農業を引継ぎ維持してゆくべき立場にある同勝に、後事を託す考えのもとに表明した相続分譲渡の意思表示と解されるのであり、同相手方もこれを受け入れる意思であることが認められる。そうすると、結局、相手方みよの法定相続分10分の5を譲受けた同勝においては、その法定相続分は10分の6ということになる。
2 遺産の範囲、現況及び評価額
(1) 本件において分割の対象となるべき被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載の土地66筆と建物4棟(以下「No.1の土地」あるいは「No.3の各土地」の如く示す)である(なお、預貯金その他については、その内容・存否が明らかではなく、当事者らもこれらを除外してよいとの意向を示しているので、遺産として考慮することはしない。)。そして、これらのうち、No.3の各土地中2012番の宅地上にはNo.1の建物3楝が存し、これらに相手方みよ及び同勝一家が居住している。No.5の各土地上にはNo.2の建物が存し、同建物は第三者に賃貸中である。また、No.24の各土地中、宅地2筆上には第三者の建物があり、畑は第三者が耕作している。その余の田畑は耕作されあるいは休耕中であるが、いずれも相手方勝が管理している。
(2) 鑑定人○○○○の鑑定結果によれば、上記各土地・建物の昭和63年1月2日(被相続人死亡日)当時の評価額は合計2億7671万9000円、平成2年9月1日(鑑定日付)当時のそれは合計5億3454万2000円とそれぞれ認められる。したがって、これらの評価額を前提として本件遺産分割審判を行うこととする。
3 具体的相続分の算定
(1) 相手方勝の寄与分
相手方勝は、「被相続人の長男として、昭和24年○農業専門学校を卒業後、報酬等は度外視して、被相続人と共に家業の農業に従事し、被相続人が死亡する15年位前からは、同相手方が一人でこれを引き継いできており、また、老齢になった被相続人の面倒もみてきた。したがって、本件遺産分割に当たっては、相応の寄与分を認めてもらいたい。」旨主張して、寄与分を定める処分の申立てをしている。そして、本件審理の結果によれば、相手方勝は、昭和24年○農業専門学校を卒業後そのまま家に残り、同26年頃から41年頃までの間、申立人、相手方孝、同トヨ及び同良子が順次独立しあるいは婚姻して家を出てゆく中で、報酬といえるようなものは得ないまま、被相続人共々家業の農業に従事し、特に、被相続人が死亡する10年位前の昭和53年頃より、被相続人が農作業から手を引いたために、これを引き継いで行ってきたことが認められるほか、その頃より、老齢となった被相続人と相手方みよ夫婦の世話もしてきたであろうと推察もされ得るのである。
かかる事情に加うるに、前掲調査報告書ならびに相手方孝、同トヨ及び同良子各審問の結果によれば、申立人を除くその余の当事者らも、相手方勝につき、しかるべき程度のものであれば寄与分を認めて妨げないとの意向を有していることが認められることをも考え合わせると、同相手方には、主として被相続人の家業である農業の後継者としてこれに従事することにより労務を提供し、また、一部被相続人の扶養に当たったことともあいまって、本件遺産の維持に貢献したものと認められるので、相応の寄与分を肯定してしかるべきと解される。そして、本件遺産の範囲、評価額及び相手方勝においては前記1の如く同みよからその法定相続分10分の5を譲受けていること等の事情をも勘案すると、本件遺産分割における相手方勝の寄与分は、相続開始時の遺産評価額合計2億7671万9000円のおよそ3.6パーセントに当たる1000万円と認定するのが相当である。
(2) 特別受益
前掲調査報告書ならびに相手方勝、同トヨ及び同良子各審問の結果を含む本件審理の結果によれば、同各相手方ら及び同孝は、被相続人において昭和60年に所有土地の一部を売却した際、被相続人から各100万円あての贈与を受けていることが認められるので、これらは同各相手方らの特別受益と解される(なお、この折り、相手方勝の二人の子もそれぞれ100万円あて受領していることが認められるが、これらは相続人に対する贈与ではないので、同相手方の特別受益としては考慮しない。)。
(3) 上記(1)、(2)に即し、相続開始時の遺産評価額を元にして各当事者の具体的相続分を算定すると、以下のとおりとなる。
ア みなし相続財産
2億7671万9000円(相続開始時の遺産評価額合計)+400万円(上記(2)の各特別受益合計額)-1000万円(上記(1)の相手方勝の寄与分)= 2億7071万9000円
イ 各当事者の具体的相続分
申立人
2億7071万9000円×1/10 = 2707万1900円
相手方勝
2億7071万9000円×6/10+1000万円-100万円 = 1億7143万1400円
相手方孝、同トヨ及び同良子
各2億7071万9000円×1/10-100万円 = 2607万1900円
相手方みよ
0円
ウ 具体的取得分
申立人
5億3454万2000円(鑑定評価時の遺産評価額合計)×2707万1900円/2億7671万9000円 = 5229万5171円
相手方勝
5億3454万2000円×1億7143万1400円/2億7671万9000円 = 3億3115万6456円
相手方孝、同トヨ及び同良子
各5億3454万2000円×2607万1900円/2億7671万9000円 = 5036万3457円
(以上計算上円未満は切捨て。なお、後記4(2)イも同様)
4 遺産の分割
(1) 本件遺産分割に当たり考慮すべき事情
ア(ア) 相手方勝は、前記2(1)及び3(1)で認定した如く、肩書住所地の自宅において、妻久子(昭和9年7月16日生、農業手伝い)、二女悦子(同47年2月5日生、専門学校生)及び相手方みよ(無職)と共に同居しており(長女幸子(同42年3月26日)は婚姻して家を出ている)、農業に従事している。なお、相手方みよについては、従前どおり今後も相手方勝が扶養することとなっている。
(イ) 申立人及び相手方孝は、前記3(1)で認定した如く、いずれも昭和26年頃上京し、皮革製品の縫製の仕事に従事するようになり、申立人において同33年8月5日、同相手方において同37年1月16日それぞれ婚姻し、これと前後して独立し、現在に至っている。それぞれの現住居は各肩書住所地にある持家であり、いずれも子供達が独立したため、妻と二人暮しである。
(ウ) 相手方トヨは、昭和38年12月27日、左官業をしている白山了と、同良子は、同41年4月11日、畳職の山本修とそれぞれ婚姻し、各肩書住所地の持家に夫及び子ら等の家族と共に居住しており、同トヨにおいてはパート勤務をしているが、同良子においては特に職に就いておらず、家事にたずさわっている。
イ 各当事者の希望する分割案
(ア) 申立人は、遺産物件中、No.4の土地、No.5の各土地及びNo.2の建物を取得することを第一に希望しており、これがかなえられない場合には、No.6の各土地及びNo.28の土地の取得を希望している。
(イ) 相手方勝は、一体に、本件遺産を他の相続人に取得させることには消極的であって、特に、申立人が第一次的に取得を希望するNo.4の土地、No.5の各土地及びNo.2の建物については、これを申立人も含め他の者に取得させることに強く反対しており、せいぜいNo.2の土地、No.6の各土地及びNo.19の各土地程度であれば、申立人に取得させるのもやむを得ないとの意向を示している。
(ウ) 相手方トヨは、No.7の土地、No.11の各土地及びNo.13の土地を、同良子は、No.8の各土地、No.9の各土地及びNo.14の各土地をそれぞれ取得することを希望している。
(エ) 相手方孝は、いわゆる土井家の今後をどのように成り立たせてゆくのかということに関心を抱いており、本件遺産についての具体的な分割希望案は述べていないが、遺産のうちしかるべき部分が取得できるのであれば、それにしたがうとの意向を示している。
ウ 本件遺産分割に当たっては、相手方勝において、被相続人の家業であった農業を引継ぎ、かつ、同みよに対する今後の扶養を行ってゆくべき立場にあることを主眼におく必要があると解される。
そして、かかる点に加うるに、前記2(1)で認定した如く、本件遺産中、No.3の2012番の土地及び同地上にあるNo.1の各建物については、相手方勝及びみよが居住していること、No.5の各土地及び同各土地上にあるNo.2の建物については、同建物を第三者に賃貸しており、また、No.24の各土地については、第三者がこれに建物を建てて居住しあるいはその一部を耕作している等、権利関係が複雑化する惧れがあるうえに、No.2の建物の賃料収入月額3万円位は、同みよの小遣銭に充てることができる等の事情もあって、既にそれぞれ独立し、各々の持家に居住している申立人、相手方孝、同トヨ及び同良子らに、敢えてこれらの各物件を取得させる特段の必要性はないというべきである。
(2) 当裁判所は、以上一切の諸事情を検討した結果、次のとおり分割を行うこととする。
ア(ア) 申立人は、No.1の土地、No.2の土地、No.4の土地及びNo.14の各土地をそれぞれ単独取得する(鑑定時評価額合計5253万4000円)。
(イ) 相手方孝は、No.18の土地及びNo.28の土地をそれぞれ単独取得する(同5035万1000円)。
(ウ) 相手方トヨは、No.7の土地、No.11の各土地、No.12の土地、No.13の土地及びNo.20の土地をそれぞれ単独取得する(同5008万8000円)。
(エ) 相手方良子は、No.8の各土地、No.10の土地及びNo.21の土地をそれぞれ単独取得する(同5019万円)。
(オ) 相手方勝は、上記以外の各土地及び建物全部をそれぞれ単独取得する(同3億3137万9000円)。
イ 上記アの現物分割の結果、申立人はその具体的取得分5229万5171円を23万8829円、相手方勝は同じく3億3115万6456円を22万2544円それぞれ超過することとなる反面、同孝はその具体的取得分5036万3457円に1万2457円、同トヨは同じく27万5457円、同良子は同じく17万3457円それぞれ不足することとなる。
したがって、本件遺産分割の代償として、
相手方孝に対し、
申立人は、 1万2457円×23万8829円/46万1373円 = 6448円
相手方勝は、 1万2457円×22万2544円/46万1373円 = 6008円
相手方トヨに対し、
申立人は、 27万5457円×23万8829円/46万1373円 = 14万2589円
相手方勝は、 27万5457円×22万2544円/46万1373円 = 13万2867円
相手方良子に対し、
申立人は、 17万3457円×23万8829円/46万1373円 = 8万9789円
相手方勝は、 17万3457円×22万2544円/46万1373円 = 8万3667円
の各支払い義務を負担することとなる。
5 手続費用中鑑定費用90万円は、相手方勝において54万円、申立人、相手方孝、同トヨ及び同良子において各9万円あて、それぞれ負担すべきである。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 石村太郎)